Drug lag

政策提言:2010年03月06日 適応外薬品を何とかしないとドラッグラグはなくならない

国立がんセンター中央病院臨床試験・治療開発部 
医長 勝俣範之
2010年3月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 
 ドラッグラグの改善を目指して、患者が声をあげ、国も本格的に取り組みを始め、ようやくドラッグラグの解消ができると少し安心していたところに、「卵巣 がんのジェムザールを治験でやる」という情報を耳にしたので、専門家としてこれは黙ってはいられないと筆をとるものである。

【2月19日の厚生労働委員会】

  話の元は、先月2月19日に行われた厚生労働委員会である。足立厚生労働大臣政務官が、同じ民主党宮崎岳志議員からの質問に答弁したものであるが、「卵巣 がんのジェムザールを、中略~やはりこれはしっかりした治験が必要であろうと、そのように思っております」と述べ、この後、卵巣がんに対して、治験を行う べく企業とPMDA(医薬品総合機構)が相談を始めているということである。足立政務官は優秀な外科医と聞いているが、抗がん剤は専門ではない。まして や、卵巣がんという比較的マイナーな疾患に関して、どれほどの知識があるというのだろうか?おそらくは、専門家にも聞いたのであろうが、危惧するのは、厚 生労働省官僚の言うなりになっていないか?また、卵巣がんの治療開発を世界的視野から判断できるきちんとした専門家の意見を聞いたのか?というところが ひっかかる。

【未承認薬と適応外薬の違い】

 ドラッグラグは、薬害と並んで日本の薬事行政のふがいなさが原因となっており、もは やドラッグラグは「第二の薬害」であると言ってよいと思う。とんでもない薬を承認して、副作用の被害を出す薬害と同様、良い薬を承認しないで患者に不利益 をもたらすのも「薬害」と考えられる。もちろん、「安全性」を第一に考え、危ない薬をむやみに承認しないというスタンスは大切である。だからといって、 「日本の卵巣がん患者にジェムザールの安全性が確かめられていないから治験が必要である」という短絡的な思考には気をつけた方がよい。治験とは何か?治験 以外の方法はないのか?など、日本の薬事行政の諸事情を理解してから考えてみることが必要である。薬害問題を解決する上で、世界の情勢・情報をいち早く取 り入れることが解決の鍵を握っていたように、ドラッグラグも世界各国の対応を学ぶことによって、解決の糸口は簡単に見つかる。
 まず、未承認薬問 題と適応外薬問題は全く別の問題であるので話を分けて考える必要がある。未承認薬とは、薬事法に基づいて日本でどの疾患にも承認されていない薬剤のことで あるが、未承認薬に対する解決策は治験活性化計画などあちこちで議論されているので、ここでは議論しないが、日本での治験が必須となるところである。いわ ゆる「ドラッグラグが3-4年ある」というところの話は、未承認薬の話である。それに対して、適応外薬というのは、ある疾患で承認され治験も済んでいる が、他の疾患に対して、適応がない薬剤のことである。適応外薬に対しても、全て「治験」が必要なのだろうか?

【治験とは何か】

  「治験」とは元々治療の臨床試験の略だというが、日本では、「薬事法上の承認を得るための臨床試験」のことを言う。「治験を行い、薬事法の承認」を得るた めには、厳密な安全性・有効性を検証しようとする臨床試験を行い、薬事法に基づいた膨大な資料の作成をし、薬学・医学・生物統計学の各専門家からの厳密な 審査を経て初めて承認となる。治験を行う企業はもちろん、審査を行う国側も莫大な時間・労働力・費用が必要となる。それだから、一つの治験を行い、承認を 得るまでに、最低数億円はかかる。人間に対して最初に承認して使えるようにするのだから、それくらい厳密な過程があって当然である。しかし、一度承認した 薬剤を他の疾患に対して承認しようとする際には、これほどまで厳密にする必要はなく、簡略化できるようにすればよいことは誰が考えても理解できる。

【適応外薬の海外での対応方法】

  海外で承認審査を行っているのは、米国FDA(米国食品医薬品局)、欧州EMEA(欧州医薬品審査庁)であるが、そもそも、全ての疾患、薬剤に対して、 FDAやEMEAは、逐一審査をしていない。シスプラチンという抗がん剤を例にとると、FDAはシスプラチンに対して、3つの疾患しか承認していない。シ スプラチンが標準治療である肺がんの承認もしていない。かたや日本は、20の疾患に承認している。日本のPMDAは、FDAの1/10の規模の審査員だと 言われるのに日本でまともな治験とその承認審査ができていたかは、はなはだ疑問ではあるが、では、米国では肺がんにシスプラチンは使えないのか、というと もちろん使える。
 海外では、要は、薬事承認と保険支払いは別になっており、適応外薬の対応方法として、主要な疾患に承認されたら、後は主要な peer reviewジャーナルに載るような臨床試験のエビデンスがあれば、順次保険適応とされるしくみが確立されている。米国では、法律で、適応外薬は治験以外 での臨床試験の何らかのエビデンスがあれば、保険(メディケア・メディケイドなどの公的保険を含む)償還を認めることが定められている。具体的には、政府 が指定した薬剤一覧に記載があるものは保険で認められる。抗がん剤の例だと、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)という全米21のがんセンターの代表が集まってつくったNPO団体があるが、NCCNは各種がんの治療ガイドラインの他、ガイドラインに 基づいた薬剤一覧集(NCCN drugs & Biologics Compendium)を作成しており、ここに載せられた薬剤は、保険適応されることになるので、医師はガイドラインに載るような良いエビデンスをつくる (臨床試験をする)ことのモチベーションにもつながっている。NCCNの薬剤一覧集は有効なエビデンスが出ると数ヶ月以内にすぐに更新されるので、日進月 歩する抗がん剤の進歩にタイムリーに準拠し、患者さんへすぐに還元できるシステムとなっている。

【日本の適応外薬の対応方法】 

  薬事承認と保険適応が一体となっている国は日本以外存在しない。日本では、適応外薬もすべて現場で使用するためには、結局、薬事法に基づく承認が必要とさ れている。悪く言うと、臨床現場では最新のエビデンスに基づく診療をいち早く取り入れたいが、薬剤の承認は、現場もエビデンスも全く知らない役人の権限に 牛耳られていて、国民に還元できていないシステムになっている。日本では、治験で承認申請する他に、「二課長通知」による公知申請で行う承認申請方法(※ MRIC vol 35参照)があるが、これは、治験をせずとも公知なエビデンスがあれば承認を認める、というしくみである。しかし、「二課長通知」による公知申請は、薬剤 申請の通常ルートではなく、限定的なルートとしてしか使えず、最終的には、企業が申請し、PMDAの審査・厚生労働省の承認が必要であることになってお り、海外のような最新のエビデンスを、タイムリーに医療現場にもたらすようなシステムは構築されていない。平成16年(2004年)に厚生労働省内に抗が ん剤併用療法委員会が設置され、「二課長通知」による公知申請方法により、19の抗がん剤が承認された(抗がん剤併用療法に関する報告書について http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/05/s0521-5.html)が、それ以来、結局適応外薬に対する抜本的な対 策が講じられることがなかった結果、6年経って、かなりの薬剤のドラッグラグがたまってきた結果、2月8日の未承認薬・適応外薬検討会 (http://lohasmedical.jp/news/2010/02/11130519.php?page=1)で取り上げられる結果となったわ けである。
 
 

政策提言:2010年02月26日 医療上の必要性の高い未承認薬 適応外薬検討会への要望書

卵巣がん体験者の会スマイリー
代表 片木美穂
2010年2月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

厚生労働大臣 長妻 昭 殿
医療上の必要性の高い未承認薬?適応外薬検討会議座長 堀田知光 殿
卵巣がん体験者の会スマイリー 代表 片木美穂

   2010年2月8日より開催された「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」は、私たちのように「世界で治療薬として使用されているにも関わ らず日本では適用されていない」ドラッグ?ラグに苦しむ患者・家族にとって、治療薬の必要性を認めていただき、使えるようになるかもしれないという希望を 託した会議です。第1回の会議を傍聴したうえで会議に対して以下の要望をさせていただきます。

【要望された治療薬に対して検討内容を情報公開してください】

  これまでの「未承認薬使用問題検討会議」や「抗がん剤併用療法に関する検討会」に関しては議事録が公開されてはいますが、治療薬の承認を要望した患者らに 対して、治療薬に対してどのような検討がされたかという回答が非常にわかりにくいものになっています。そのため、要望しても「要望がどのように取り扱われ たのか」わからず、その後の対応に苦慮することが大変多いです。この会議に先立ち、2009年8月17日までに提出したパブリックコメントに対しては、患 者会は、できる限りの詳細な治療薬の情報を調べ、必要性があると信じて要望しています。要望に関し、企業がどのような意見をし、委員やワーキンググループ によってどのような検討がされたのかということがわかるように情報公開をしてください。

【保険支払いの必要性に関しても検討してください】

   第1回の会議で事務局から配布された資料によると、この委員会では要望があった治療薬に対して「公知申請を行う」か「治験を行う」ことを企業に要望する ための仕分けが行われるように思います。しかし、私たちは「55年通知」をもとに、ただちに保険支払いを決めるという回答も必要ではないかと思っていま す。

  日本医師会会長が武見太郎氏の時代に、橋本龍太郎大臣に認めさせたと言われる、「55年通知」(別紙)は、薬事承認された適用の他にも、 薬理作用に基づいて処方した場合(海外データがあるなど医学的に効果があると医師が判断したもの)は、保険により支払いを認めてよい、という内容です。こ の通知は現在も生きています。実際に社会保険診療報酬支払基金は2007年9月に47品目、2009年9月に33品目を保険適用しています。しかしなが ら、この社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供委員会は委員も、検討内容も非公表というとってもおかしい委員会であり、判断過程を透明化でないため、ど のような基準で保険が認められるかもわかりません。治療薬にとっては、「公知申請」や「治験」ではなく「保険適用」を検討するべきものもあるのではないで しょうか?ぜひ、保険支払いに関しても検討項目に加えていただきますようお願いいたします。

20100203 ドラッグ・ラグが深刻化した場合の責任はだれにあるのか

卵巣がん体験者の会スマイリー
代表 片木美穂
2010年2月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
 
【はじめに】

  卵巣がん体験者の会スマイリーは2006年9月、プラチナ抵抗性の再発卵巣がんの治療薬「ドキシル」「ゲムシタビン」「トポテカ ン」の早期承認を求めて結成された患者会です。2007年4月に署名2万8603筆、2009年1月に署名15万4552筆を厚生労働省に提出し、ドラッ グ・ラグ解消を働きかけ続けてきました。

  2009年4月にドキシルがやっと承認され、現在多くの患者さんがドキシルの投与をしています。卵巣 がんは再発すると極めてキュア(完全に腫瘍が消滅する)ことは難しいのですが、治療の選択肢が増えれば、それだけ治療を繋ぎ、1日でも家族のそばに長くい ることができます。

  私たちが求めている抗がん剤は「未承認薬」ではありません。日本で他の部位(癌種)に承認されているのに卵巣がんには承認されていない、いわゆる「適応外」の治療薬です。

  先日、ゲムシタビンが、2月にも「再発乳がん」に対して適応追加されるというニュースが飛び込んできました。1999年の非小細胞肺がんの適応承認につづき、膵がん、胆道がん、尿路上皮がんと承認され、5番目の適応追加となります。

   それでも卵巣がん患者は使えません。現在は診療科の枠を超え、外来で化学療法を受けることが増えてきたので、「隣のベッドの非小細胞肺がんの患者さんが ゲムシタビンを使っているのに、どうして自分には使えないのか!日本にゲムシタビンが無いならまだしも、隣のベッドに治療薬があるのに使えないなんて!」 という患者の悲痛な声が届いています。

  2月8日に、厚労省で「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議(有識者会議)」が開催されま す。この件に関して、「中央社会保険医療協議会(中医協)」での議論(※1)が、額面通りに有識者会議で審議されると大変なことが起きるのではないかと、 ドラッグ・ラグに向き合う患者会として大変心配しています。

【日本の治療薬の承認とPMDA】

  まず、日本では、治療薬は、厚労省医薬局が承認し、保険局が保険適用した後に使われます。

  承認申請方法は、主に「通常の申請(治験をする)」「ブリッジング(少数の治験)」「104号通知(二課長通知、海外のデータなど公知の事実で申請)」などがあります。

   驚いたことに、二課長通知は、企業が「二課長通知で申請させてほしい」と頼むのではなく、研究開発振興課長と審査管理課長が「二課長通知で申請しなさ い」と指示してくるものだそうです。研究開発振興課長と審査管理課長が治療薬の知識においてどのような資格をお持ちなのかわかりませんが、通知を読んでみ てもその基準が明確ではなく、とてもわかりづらいです。

  二課長通知以外で申請する薬は、治験が必要です。そして、治験薬は「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」に承認申請され、PMDAはそのデータをもとに承認審査されます。

   先にご紹介した中医協(※1)の議事を読んでみると、治療薬は年間およそ70成分が承認されています。治療薬はすべてが承認されるわけではなく、承認取 り下げになるものもあるので、実際はもう少し多くの薬を審査官は審査し承認の可否を判断していると推測されます。PMDAのWebサイトに公開されている 資料(※2)の54枚目をみると、年間およそ80品目以上の申請があり、現在審査中のものが150あります。

【長妻大臣に期待】

  これまでドラッグ・ラグ問題と向き合ってきて感じるのは、PMDAにお勤めで実際に審査にあたられている職員の方は決して能力がないわけではなく、医療現場にもどったなら即エースになるような人が多く少数精鋭で本当に素晴らしい努力をされていることです。

  しかし、厚生労働省から天下りをしているようないわゆる厚生労働省OBなどがいることも指摘され、「審査の邪魔」をしているように見受けます。長妻大臣は、独立行政法人の見直しをされたと最近報道されていますので、その手腕に大変期待をしています。

  本当に能力のある人が能力を発揮し、審査が進むPMDAにしてほしいと心から願っています。

【新薬創出加算(薬価維持特例制度)】

  「ドラッグ・ラグ」の問題に、製薬業界が何も手立てを考えていないわけではありません。

  製薬業界は、一つの解消策として「薬価維持特例制度」を提案してきました。私も「これからの新薬創出には必要な制度」だと認識し、大変応援しています(※3)。

  今回、中医協で「新薬創出加算」という名前に変って、暫定的に導入されることになりました。細かく見ると、厳密な薬価維持ではないことから薬価疑似特例かなと思ってしまいますが、それでもひとつの手立てが行われることはとても大きな一歩です。

  しかし、この制度だけでは古くからラグになっているような治療薬まで開発できるかというとかなり難しいのではと思っており、後述しますが適応外医薬品などは新たな対策が必要だと考えています。

【適応外医薬品は当初補正予算の対象だった】

   適応外医薬品は、2009年8月17日まで関連学会や患者会からの要望を広くパブリックコメントで募集され、未承認薬92件、適応外医薬品284件の要 望があがっていると、審査管理課が2009年11月16日の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会(薬害肝炎委員会)」 で報告しました。

  実は、このパブリックコメントには降ってわいたような予算が当初付けられていました。2009年6月18日に開催された「第21回未承認薬使用問題検討会議」でのことです。

   医薬食品局審査管理課長が「5月の末に成立した補正予算の中で,未承認薬・適応の開発支援として7百数十億円,また,それらの薬の審査を急ぐ費用として 40数億円,合わせて800億円弱の基金をつくって,3年間集中的にこれに取り組むということにした。」という発言をしたところからはじまります。その予 算のうち,100億円に関しては厚生労働省「未承認薬検討会議」で開発が必要だと認められながらも着手できなかった12品目の開発費用として使い,残りの 予算を「8月17日まで募集されたパブリックコメントで集められた開発を希望する医薬品の中より,検討する」という報告されています。 

  しか し、10月6日、長妻厚生労働大臣が「開発品目が決まってないものに金を出せない」ということで、開発が決まっていない653億円を執行停止しました。先 の総選挙で「脱官僚」「無駄をなくす」という民主党に賛同して多くの支持をうけたのだから、この大臣の判断はとっても素晴らしかったと思っています。

  ここで私は、長妻大臣が「適応外の問題は薬事と保険の問題だと気づいた」と思っていたのですが、その後、国会で「有識者会議で選別して本予算で」と言っているのを聞いてズッコケてしまいました。
そんなこんなの二転三転したパブリックコメントですが、11月に各企業へ見解の提出を求められ、更にそのあと、もう一回企業の意志を確認しているようです。

   中医協の議論(※1)からもうかがえるように、2月8日に開催される「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議(有識者会議)」では有識者によ り、パブリックコメントの要望と企業の見解を元に「二課長通知で半年以内に申請する」のか「治験届を1年以内に出させる」のかの分類がなされるのでしょ う。

【新薬創出加算の紐付きに】

  中医協の議論(※1)を追っていてビックリしたのは、この新薬創出加算と有識者会議が紐付きにされていることです。つまり「製薬企業は新薬創出加算を受けたかったら、有識者会議の言うことを聞いて治験しろ」ということになっているのです。

   これを問題の本質を知らない人が聞いたら、「じゃあ申請してもらえるんだから承認も進むわね」「治験してもらえるならよかったじゃない」というと思いま すが、この紐付き制度をドラッグ・ラグと真剣に向き合っている人たちが聞いたら「それはまずい!」と口をそろえて言います。

  先にも記載したとおり、年間80の治療薬が承認を求めて申請され、年間70の治療薬が承認されています。そして現在150もの治療薬が審査を待っています。

   自動車で表現すれば、「毎年高速道路に80台の車が通行をしたいとやってきます。しかし高速道路を通過できるのは年間70台です。しかもすでに150も の車が順番待ちをします。」というのが今の日本の治療薬審査の現状です。この紐付きの制度は、更にこの高速道路に「半年以内に二課長通知で申請を出せ」と 言われた治療薬が、まず暴走車のように利権を求めて突っ込んできます。更に「1年以内に治験開始しろ」といわれた車が、治験相談だといって窓口に殺到しま す。単純に考えても300もの薬が我先に利権を求めて飛び込んでくるのです。

  いくら有能なPMDAの方が、この治療薬の問題を捌くとはいえ皆さんに状況がわかると思います。

  これではドラッグ・ラグ解消どころか、ものすごい深刻化するのではと心配になるのはあたりまえじゃないでしょうか。

   パブリックコメントで要望が出されている治療薬は、これまで何らかの理由で着手できていないものも少なくありません。そんなものにいきなり「半年」とか 「1年」と期限をつきつけられ、企業が申請できるでしょうか。「新薬創出加算を諦めるかわりに治験もしない」という企業が出てくるかもしれませんし、現在 普通に申請を目指して治験している治療薬や、海外と一緒に治験している治療薬が煽りをくって、日本だけやむを得ずストップするかもしれないという事態が起 き、「ホントに必要な薬が宙に浮く」ということになりかねません。

  ドラッグ・ラグを解消するために、ドラッグ・ラグが深刻化したら一番困るのは患者です。

  これまで「未承認薬使用問題検討会議」や「抗がん剤併用療法に関する検討会」が都度開催されてきましたが、これらでドラッグ・ラグの根本的解決に至ってないのは明らかです。

  ドラッグ・ラグを解消するのは、本当に有識者会議なのでしょうか。

【ドラッグ・ラグは保険を認めれば解決する】

  じゃあどうしたらドラッグ・ラグ解消できるのか。

  私は昨年11月16日にヒアリングを受けた薬害肝炎委員会にヒントがあります(※4)。

  この委員会での小野俊介先生(東大薬学部)と堀 明子先生(帝京大学腫瘍内科)の発言に注目していただきたいのです。

   日本では、すぐに「海外で承認されているもの」という基準で治療薬を見ます。でも、海外では保険制度が、自らその妥当性を判断するという仕組みが当然の ようにあるため、日本みたいに「はい、薬事法にのっとって何でもかんでも治験してください」という制度じゃないのです。

  この「何でもかんでも薬事法」のマジックにひっかかってはいけません。
日本のお医者さんたちは保険医が大半ですから、医師の療担規則にのっとって保険支払いが認められた治療薬しか使えないのです。つまり「保険支払い」を認めてしまえば、承認されようがされなかろうが、なんの問題もないのです。

役人は保険支払いというお金の問題を、「薬事法」や「薬事承認」にすり替えているのです。

  「保険を認めればいい」だけなのに、薬事に縛られるから、「何が何でも申請させないと」という企業いじめになるのです。そしてその被害を患者がまともに受けます。

  歴史をさかのぼれば昭和55年通知というものがあります(※5)。

  日本医師会長が武見太郎氏の時代に、橋本龍太郎大臣に認めさせたと言われる、「55年通知」は、薬事承認された適用の他にも、薬理作用に基づいて処方した場合(海外データがあるなど医学的に効果があると医師が判断したもの)は、保険適用を認めてよい、という内容です。

  この通知は現在も生きていますが、無視され続けています。30年も前に薬事と保険を分けるべく通知がでているのに、その約束を厚生労働省が守っていないのです!私が小学校に入学する年の通知です。信じられません!
少 なくとも2007年9月21日に、社会保険診療報酬支払基金が47品目を未承認ながら保険適用を認めていることからもわかりますし、実際にその時に通達と して出された保医発第0921001号には55年通知のことも記載されています。保険局医療課は「薬事承認がないと保険は認められない」と言い張るかもし れませんが、前例はしっかりあるのです。

【薬害被害の対策は「事前の審査」より「事後の対策」】

  私は、何度もご紹介している薬害肝炎委員会にヒアリングに呼ばれた時に、「薬害被害者の方を盾にされてドラッグ・ラグ解消が悪いかのような扱いを受けた」ことを話しました。

   残念ながらインターネットで少数のメディアが報じただけですが、このヒアリングを機に薬害被害者のみなさんとお話しをすることもでき、同じ薬事行政の被 害者だと改めて認識しました。実際に、こちらの委員会では適応外医薬品のありかたについては、第一次提言などに記載されており、一緒に適応外について考え ていく存在だと思っています。

  先に「保険支払いをすること」がドラッグ・ラグの解消の手段である旨をお話しさせていただきましたが、そこでネックになるのが「安全性」の問題だと思います。

  では、抗がん剤の治験で、一体何例の被験者が治験を受けているのでしょう。その数は最低限の被験者であり、実際に承認された後、何千人という患者さんがその治療薬で治療を受けるのです。

  例えば被験者が数百人だったとしたら、数千分の1の確率で起きる重篤な副作用は見逃されます。以前、ネクサバールの発売後に、ブルーレターが出たように、承認された後、見つかる副作用も少なくないのです。

   事前の審査で防止できる副作用も大切ですが、それは例えば他の癌種に承認されていたり、海外のエビデンスでもある程度把握できるだろうことだと思いま す。それより大切なのは承認された後に「しっかり副作用情報を集積し報告を義務付け、予期せぬ副作用が出たときには早急に関係機関に周知する」というシス テムなのではないでしょうか。

  きっとそれは薬害被害者のみなさんも、私たちドラッグ・ラグ被害者も双方が必要と認めるもののような気がしてなりません。つまり、私が思う解決策に、薬害被害者のみなさんたちのこともしっかりと入っています。

【こんな治療薬にも治験は必要ですか?】

  たとえば、卵巣がんの初回化学療法で、パクリタキセルのWeekly投与をパブリックコメントで出しました。

   現在、卵巣がんにはパクリタキセルは3週ごとで承認を受けています(乳がんはWeeklyで承認されています)。婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構 (JGOG)が、600人以上の日本人の卵巣がん患者に対して、従来の3週ごととWeekly(毎週投与)とランダム比較試験をした結果、無増悪の期間が 10カ月以上の差が開いたという結果がでています。再発したら極めてキュアが難しい卵巣がんにとって、初回治療は徹底的に癌を叩きつぶすべし!と婦人科腫 瘍医ならだれもがいうと思います。

  その初発の治療に対して、同じパクリタキセルとカルボプラチンの併用なのに、パクリタキセルを毎週投与する だけで10カ月もの差があったのです。予後が厳しい卵巣がん患者にとっては、この結果はものすごく大きなものであります。すでに承認されているパクリタキ セル。でも使い方が違うだけでもまた治験しないとダメなのでしょうか。

  JGOGは質の高い臨床試験を行っており、しかも登録症例が600例以 上(治験では考えられないような数字)です。更に、ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)では、2008年にBEST of ASCOに選ばれる発表になっており、医学誌では最高のLANCETにも論文が紹介されています。日本人が600人も参加し、日本で行われた臨床試験で、 LANCETでも評価を受けたにも関わらず、日本では治療に使えないなんて世界中の笑われ者です。笑われ者どころか、再発したら極めて予後の悪い卵巣がん 患者からすると、10カ月の無増悪の延長があるのに、使えないなんて命を不作為により削られているのと同じです。

  また、冒頭にご紹介したゲム シタビンも5つ目の適応となるのに、それでも「卵巣がんの安全性を確認するための治験」が必要なのでしょうか。ましてや、ゲムシタビンは多くの医療機関で 卵巣がんに対する適応外使用をあたりまえのようにしています。治験になれば薬事法の管理下におかれ、適応外使用を制限される可能性もあり、現在ゲムシタビ ンを使っている患者さんはどうなるのでしょう。こういった治療薬こそ有識者会議ではなく保険支払いすべきです。

【最後に】

  有識者会議が持たれると初めて耳にした時には、「ドラッグ・ラグを解消するための方法を考える会議」だと期待していましたが、「新薬創出加算を企業が受ける ための紐付き」であり「なぜここまでドラッグ・ラグが深刻化したのか考える場所ではなさそうだ」というが中医協で嘉山孝正先生(山形大学)が投げかけてく ださった質問(※1)からわかりました。

  ドラッグ・ラグ解消を謳いながら、ドラッグ・ラグが深刻化したら一体誰が責任をとるのでしょうか。また、これまでどおり製薬会社とPMDAに責任をなすりつけるのでしょうか。

  学会や患者会が出した要望が通らなかったときには、誰に意見を言えばいいのでしょうか。選ばれる委員の先生たちは、そういった身近な医師や患者からの意見をうけプレッシャーに耐え、冷静な判断ができるのでしょうか。

   「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議(有識者会議)」では治療薬の仕分けではなく、どうして医療上必要性が高い薬を患者がつかうことがで きないのか、検討していただきたいということ、そして薬事と保険は別で考えること...、もし「政治介入」という言葉があるのであれば、政治家のみなさん にはぜひここの部分こそ介入してほしいと願います。エビデンスがあるのに適応外だから治療薬を使うことができず苦しむ多くのがん患者の命を助けることにな ります。

  2月8日はぜひぜひ皆さんの目でこの問題を見極めるために有識者会議に注目してください。委員の人選にも注目してください。

※1:http://lohasmedical.jp/news/2010/01/30132716.php
※2:http://www.PMDA.go.jp/guide/outline/report/file/20-2bunsyohen.pdf
※3:http://ransougan.e-ryouiku.net/bookfile/media073.pdf
※4:http://lohasmedical.jp/news/2009/11/17112544.php?page=1
※5:http://www.sypis.jp/goui.pdf

政策提言:「難治性がん研究法」にオバマ大統領が署名

海外ニュース

 

2013年1月3日「難治性がん研究法」にオバマ大統領が署名

 

膵臓がんアクションネットワークは、「難治性がん研究法」に署名したオバマ大統領を賞賛

(2013年1月3日) 

 

オバマ大統領は「難治性がん研究法」に署名することにより、膵臓がんとの戦いの歴史を作りました。以前「膵臓がん研究と教育法」として知られていた法案は、「国防授権法」ととも提出され、12月21日に米議会を通過しました。このランドマークとなる画期的な法律は、米国国立がん研究所(NCI)が膵臓と肺がんを含む最も致命的ながんと診断された人々の治療成績を向上させるために、早期発見方法やより良い治療の選択肢を開発すること、また、非常に生存率の低いがんに関する現在の研究努力を検証することを要求しています。

”「難治性がん研究法」の採択は、難治性がん、特に膵臓がん、との闘いで歴史的な勝利です。それが膵臓がんのために特異的に立案された最初の法律だからです" と ジュリーフレッシュマン、膵臓がんアクションネットワークの社長兼最高経営責任者(CEO)は語りました。"全国の大勢の膵臓がん撲滅運動の支持者と患者を代表して、我々はこの法案に署名してくださった超党派の議員の方々、ならびに、オバマ大統領に深く感謝いたします。"

 

"この成果は、法案のリードスポンサーである代表アナエシュー(Anna Eshoo D-CA)議員、代表者レナードランス(Leonard Lance R-NJ)議員、及び上院シェルドン·ホワイトハウス議員(Sheldon Whitehouse D-RI)のリーダーシップなしには可能ではなかっただろう。彼らのハードワークと、熱烈なアドボケートネットワークの信じられない献身的な努力が、この法案が法律になるために必要な勢いを与えてくれました。また、この重要な法案を通過させるために、努力を惜しまなかった患者会「肺がんアライアンスLungCancerAlliance」パートナーに感謝いたします。 何よりも、この法律は、膵臓がん患者とその愛する人のための希望を提供します。今日、我々はこの重要な一歩を祝いますが、膵臓がんによって大切な人の命を奪われた多くの人々の悲しみを忘れてはなりません。

"

「難治性がん研究法」では、NCIは、膵臓がんおよび他の難治性がんのための科学的なフレームワークを確立する必要があるとされています。これらのフレームワークは、科学的進歩を識別し、研究者の十分性を評価し、継続的な研究のための計画をアウトラインするために役立ちます。法案は、NCIの現在の研究を補完するものであり、適切なベンチマークを通して研究や対策の進捗状況を前進させるための推奨事項が含まれてバランスのとれたアプローチです。 NCIは厳密に既存の研究の努力を評価し、難治性がんの予防、発見、診断、および治療法の進歩を支えているかを検証することが推奨されます。

 

現時点では、膵臓がんの早期発見法も、また効果的な治療オプションもありません。それが、膵臓がんコミュニティにとり、今回のオバマ大統領が署名して法律化した法案の重大な意義です。この法律は、最終的には膵臓がん患者のための未来を変更する機会を提供しています。

 

今年、ほぼ44000人のアメリカ人(27000人以上の日本人)が膵臓がんと診断され、37,000以上が死亡します。膵がんの5年生存率は現在わずか6%で、すべての主要ながんキラーのなかでも最低の生存率です。そのため、早期発見方法もなく、また、効果的な治療法の選択肢も不足しているため、膵臓がんは発生率と死亡率の両方が近年増加しています。現在のがん死亡者数では膵臓がんは4位ですが、このままの傾向が続くと2020年までに米国ではがん死因の2番目に主要ながんキラーになると予想されています。

膵臓がんアクションネットワークは、「難治性がん研究法」の成立を主張する中で、「肺癌アライアンスLung Cancer Alliance」の努力と支持を称賛します。私たちは米国の最も致命的ながんを敗北させるために協力する組織との連携、協力を楽しみにしています。 "とフレッシュマン代表が語りました。

200912 ドラッグ・ラグ解消 薬価もカギに

片木美穂×関口康 対談
            『ロハス・メディカル』09年12月号より
 

 欧米に比べて新薬を使えるようになるのが遅いという『ドラッグ・ラグ』。患者としてこの問題の解消を訴え続けてきた片木美穂・スマイリー代表と、業界団体として解消に向けた取り組みを始めている関口康・米国研究製薬工業協会(ファルマ)在日執行委員長の2人が、今何をすべきなのか対談しました。

関口 今、平均的なドラッグ・ラグは4年と言われています。この4年を分解すると、企業の日本での治験開始が2年遅くて、治験に要する時間が長いので1年遅れて、審査でもう1年遅れます。国も審査を早めたり、治験環境を改善しようと頑張ってくれていますが、それだけでは十分ではありません。企業の治験開始が遅れるのには理由があって、一つは新薬の薬価が安いことです。私たちファルマで日米欧の主要12社に調査したところ、十分な薬価が期待できないために日本での開発を見送った製品が10年間に23品目もありました。検討すらしなかったもまで含めると、もっと数は多いはずです。

片木 インターネットのない時代なら海外と差があっても患者たちは気づかなかったと思いますが、今は海外にいい薬があることを皆が知っていて悔しがっていま。ただ、なぜラグができるのかという理由に関しては、私自身、何でなのと色々な人に尋ね回って、ようやく事情を理解できたところです。多くの患者は全然気づいてないでしょう。この問題になぜ目を向けないのか、と歯がゆくて仕方ないんですけど。

関口 新薬候補のうち薬になれるのは2万分の1ぐらいで、1つの薬ができるまで1千億円以上かかります。製薬会社がそれだけリスクの高い投資を行うには、開発に成功した際にはそれに見合う利益が上がり、きちんと投資回収が行える必要があります。ところが日本では難しい。

片木 製薬会社は儲けすぎているという勘違いが、患者の中にも多いです。先日、つくばへ講演に行きましたら、外資系製薬企業の研究所が軒並み撤退しちゃってて、危ないなあと思いました。いくら国が審査員を増員したって、企業が開発しなければ審査できませんからね。

関口 外資から日本がどう見えているかというと、治験が進みにくい土壌なので時間とお金がかかって、そのうえ審査も厳しい。それだけ苦労して承認を取っても、期待通りの薬価がつかないうえに年々下がる、そういう所です。昨今、世界的に経営環境がどんどん厳しくなる中で、製薬企業は限られた資金をどの市場に投資すべきか優先順位づけを迫られており、多くの外資系企業の目は、日本ではなく中国などより成長の大きな市場を向いています。

片木 婦人科領域でも、アジアの共同治験のトップが、日本人ではなく、韓国人になっていると聞きます。国際標準の薬で承認されていないものが多すぎて、共同治験にすら入れてもらえないんだと先生方が悔しがってました。ドラッグ・ラグの問題で、企業や医療者を責めるのは間違っていると痛感しています。

関口 製薬会社が上げた利益は新薬開発にこそ使われるべきですし、また事実そうなのですが、誤解を受けているように思います。こうした再投資の構造を国民に見えるようにして誤解を解きたいという思いもあって、私たちは業界をあげて薬価維持特例(*参照)という制度を提案しています。画期的新薬の価格を下げない代わりに特許が切れたら一気に下げる。この制度があれば、薬価が安すぎるから治験開始を遅らせるということはなくなります。一方で、よい新薬を生み出し続けられない会社は厳しい状況に追い込まれることになるでしょう。

片木 自ら厳しい所に追い込む提案で、業界内での反発もさぞや激しいだろうと思います。大英断ですね。ところでウチのメンバーが、この制度を導入すると治療費も高くなるんじゃないかと心配していました。高額療養費制度で戻ってくるにしても、それまでの間が持たなくなるかも、と。

関口 この制度は、薬の値段を上げるものではないんですよ。一定期間は値下げをしなくするというの話で、しかも対象となるのは、元々値下げ幅の小さい革新的な新薬だけです。ですから、例えば自己負担が1錠千円とか二千円の高価な薬の場合でも、従来なら2年に一度行われていた数十円ぐらいの値下げが行われなくなるといった程度です。そして、そうしたご負担で画期的な新薬へのドラッグ・ラグが改善されるんだという関係をご理解いただけると幸いです。

片木 その程度と分かれば安心して賛成すると思います。ドラッグ・ラグ解消を訴えてきて、明日はわが身かもしれないのに、多くの国民が無関心すぎると憤りを覚えています。そして国民を巻き込めていないのは患者にも責任があると思います。医薬品行政が世界から取り残され鎖国になっている現実をまず患者が直視して、状況を変えるため声を上げていけたらと思います。


(略歴)
かたぎ・みほ●1973年、大阪府生まれ。94年、金蘭短期大学国文科卒業、トランスコスモス入社。99年、結婚退社。01年に男児を出産。04年、30歳の時に卵巣がんを発症。06年、卵巣がん体験者の会『スマイリー』代表。

せきぐち・こう●1948年、東京都生まれ。73年、東京大学工学部卒業、三菱商事入社。ボストン・コンサルティング・グループ、ジョンソン・エンド・ジョ
ンソンメディカルを経て、98年、ヤンセン協和(現・ヤンセンファーマ)社長。09年、会長。

*薬価維持特例
 診療報酬の額を定める厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)で現在導入が議論されている新たな薬価決定の仕組み。「革新的な新薬の薬価を後発品発売までの間は引き下げずに維持し、その後の後発品の発売に合わせてそれまで維持した分の薬価を一括して引き下げる」もの。「後発品使用促進」と対になる施策。

 

(この原稿は、『ロハス・メディカル』09年12月号のP18~19に掲載されたものです)
 

20090901 適応外治療を受けたいという願いはわがままなのでしょうか

卵巣がん体験者の会スマイリー 片木美穂

「何ができるかわからないけれど舛添厚生労働大臣に会ってくるよ。」
松島麻子(仮名)さんは、静かに、でも覚悟を決めたように力強く言いました。

 

●卵巣がんについて


 卵巣がんは1年間で約8000人が発症し、約4500人が亡くなる婦人科がんの中でも極めて予後が悪いがんです。自覚症状が出にくく検診で発見するのも難しいことから多くの患者が進行がんになった状態で発見されます。そのため、抗がん剤治療が不可欠です。
 標準治療(ファーストライン)はタキソールとカルボプラチンの併用療法が世界中で行われており、日本も同様です。しかし、日本では、カルボプラチンやシスプラチンといったプラチナ製剤に耐性などが起きたときに、選択肢が少ないのです。世界で卵巣がんのセカンドラインとして使用されている「トポテカン(ラグ13年)」、「ドキシル(ラグ10年)」、「ジェムザール(ラグ3年)」が、2009年4月22日にドキシルが承認されるまで「適応外」という状態でした。

 

●厚生労働大臣面会の背景


 麻子さんは、当会の会員の中でも一番の勉強家で、プラチナ製剤に耐性が起きたときの治療法が少ないという現状をとてもよく理解していました。麻子さんは2008年10月15日に当会がドラッグ・ラグ解消の署名活動を始めたときに、大学時代の友人に積極的に声をかけました。
大学時代に弁論部に所属していた麻子さんの友人の多くは、国会議員・地方議員として活躍しています。卵巣がん患者が置かれている現状に驚いた仲間が麻子さんのもとに集まりました。11月の初めに舛添厚生労働大臣に麻子さんが直接会えることになりました。麻子さんに、同行をしてほしいと声をかけていただきましたが、署名活動のまっただなかで連日マスコミなどの対応に追われて調整がつきませんでした。大臣に会うまで、毎日のように麻子さんと電話
で打ち合わせをしました。不安な時も、「私がマスコミのみなさんに報道をしていただき空中戦をする、麻子さんが、大臣に直接卵巣がん患者の現状を訴える地上戦だね。」といって励まし合いました。

 

●再発卵巣がん患者の現状と「ジェムザール」


 麻子さんは、再発後の抗がん剤治療がいずれも効果がみられず、当時治療に使っていた抗がん剤は副作用も強く、辛い思いをしていました。しかしその治療を受けなければ「もう手が無い」状態でした。
 私たちがセカンドラインとして求めるうち、「ドキシル」はマスコミの報道などが後押しをし、2007年11月に迅速審査になり、近い将来に承認されるだろうということでした。そのような背景から麻子さんが強く望んだ薬が「ジェムザール」でした。

 「ジェムザール」は非小細胞肺癌、膵癌、胆道癌、尿路上皮癌に日本では承認されています。
卵巣がんに対して世界約60カ国で承認されており、複数の海外の無作為化比較試験等の公表論文で有効とされています。NCCNのガイドライン、日本の卵巣がん治療ガイドラインにも再発卵巣がん治療の選択肢として記載されている抗がん剤です。

 麻子さんは再発後、セカンドオピニオンに訪れた病院で「数か月ごとの刻みにはなるかもしれませんが、抗がん剤治療をうまく組み合わせていけば、やがてドキシルが承認され、その次の手がでてくるかもしれない。頑張りましょう。」と言われていました。それは、治療を望む麻子さんに対する医師の励ましだったのかもしれませんが、麻子さんとっては生きる指針になったのです。
 また、スマイリーでは多くの卵巣がん患者が適応外でジェムザールでの治療を受けていました。2008年8月5日に日本テレビニュースリアルタイムで取り上げられた当会会員は、さまざまな治療を受けて効果が頭打ちになっていたときに、ジェムザールが奏功し無病期間を送っていたことも麻子さんにとっては無視できない情報でした。

 

●適応外治療を受けたいという願いはわがままなのでしょうか


「なんとか、ジェムザールを投与して貰えないか。」
 麻子さんの思いは強かったのですが、神奈川県立がんセンターの担当医は「適応外治療を絶対にしない」と告げたといいます。神奈川県立がんセンターは「腎臓がん患者に対して混合診療していた」ということでマスメディアに取り上げられたことなど背景があったのかもしれません。医師の療担規則についても麻子さんは知っていましたが、担当の医師からは適応外治療をしないことに対して、何も納得のいく説明がなかったといいます。

 麻子さんと私は、スマイリーの会員から情報を集めました。国立がんセンター中央病院や千葉県がんセンター、静岡がんセンターに通院している患者からは「ジェムザールの治療を受けたことがある」、「医師から受けられると聞いた」という回答が複数あり、埼玉県立がんセンター、神奈川県立がんセンターに通院する患者からは麻子さんと同じく「適応外治療を受けられない」という回答がありました。
「誰もが癌を告知され、病院を選ぶ時に、まさか自分が治療に手詰まりになる事を考えて病院は選んでいない。海外に治療薬があって日本で承認されないことだって辛いのに、同じ日本で治療の選択肢が違うのですか!適応外治療を受けたいという私の願いはわがままなのでしょうか!?」麻子さんの悲痛な声が胸を打ちました。

 

●大臣との面談、その後


 2008年11月、麻子さんは支えてくれる仲間と一緒に舛添厚生労働大臣に面会しました。世界であたりまえに受けられる卵巣がん治療を受けたいという切実な思いを伝えてきたといいます。ただ、麻子さんの体調では霞が関に行くだけでも疲労の色は濃く、また副作用が強い抗がん剤治療を受けていたため詳しく報告は聞けませんでした。
 しばらくして、「神奈川県立がんセンターではどれだけ担当医を信頼し、願ってもジェムザールでの治療は無理だから、病院を探して群馬県の総合病院に明日行くことになりました。」と連絡がありました。神奈川から群馬までの道のり、麻子さんの体調を思うと、患者がどうしてここまでの苦労をしなければならないのかと切なくなりましたが、きっといつもの明るさで報告してくれるものと待っていました。

 2009年元旦、麻子さんは天に召されました。まだ30代でした。 群馬で治療ができると私に電話をしたあと、腫瘍が腹部を圧迫することによる腸閉塞を起こし神奈川県立がんセンターに緊急入院したのです。あと1日あれば、ジェムザールが受けられたのにと呟く彼女に、何を言えばよかったのだろうと今でも思います。
 麻子さんを見送ってすぐ、2009年1月27日、厚生労働省に、卵巣がん治療薬の早期承認を求める署名15万4552筆を提出しました。たった2ヵ月半で、これだけの賛同が集まりました。段ボール8箱、重さ約150キロ...。その中に麻子さんが集めた署名も入っていました。4月22日、抗がん剤ドキシルは、申請から2年3カ月という異例の早さで承認されました。しかし、その裏で、治療を願いながら多くの命が旅立ったことには変わりがなく、承認を知らせるファック
スを手に取り涙が止まりませんでした。

 

●いまこそ適応外治療について考えるとき


 麻子さんが期待した「ジェムザール」や「ドキシル」のように世界の多くの国で承認され、臨床試験で有効するというエビデンスがあり、NCCNや日本のガイドラインにも掲載されていて、日本でも複数のがんで承認されているお薬があるとします。
 それが、自分の病気に適応症をとっておらず、すでに特許が切れていて、治験などの予定も立っていなかったらどうしますか?
 もちろん、承認されることが一番だと思います。しかし、治験や審査には4年も5年もかかり、多くのがん患者にはその時間がありません。日本には公知申請(2課長通知)といって、公知の事実があれば、そのデータを使って承認申請ができるというしくみもあるようですが、多くの企業担当者は「PMDAが公知申請をさせてくれない。他の薬が人質に取られている。」といいます。
 こういったことを考えると「承認される"べき"」というのは、きれいごとであり、「いのち」を第一優先で考えたときには、承認されるべきという考えすら、いのちを断ち切る高い壁になってしまいます。
 この日本の現状で、適応外での治療を希望するのは人として当然だと思いませんか?

 適応外使用を考えるとき、効果よりも危険が高い治療や不利益な治療が行われるのではないかという不安も確かにあります。医師にはプロ意識を持ち、「国ではなく医師」が医師を監視する「自浄作用」をもって正しい治療を提供していく取り組みが必要なのではないかと思います。
また患者も藁をもすがる思いだからこそ、患者力をつけ正しい治療にアクセスする必要があると感じています。いのちと向き合う患者が担当医としっかり話し合い、薬のリスクとベネフィットを理解し、それでも治療を望んだ時に、どうして国が「混合診療」だと口を出してくるのでしょう。

 お別れの場に置かれた写真の中に、麻子さんが舛添厚生労働大臣に会った写真がありました。たった2か月前の出来事です。「患者の現状を伝えたい、有効性が確認されている治療を受けたい。」麻子さんの思いは大臣に伝わったでしょうか。
 当会ではいつも会員さんに伝えています。「この世には奏功率100%、副作用0%というお薬はない。だからこそ患者力をつけよう。」治療したからといって全員が治るわけではない、がんという病気を考えたら奏功する人はほんの一握りです。だからといって承認されないから諦めろというのでしょうか。
 ドラッグ・ラグは改善しようと思えばいくらでも方法があると思うのです。もっと前向きに今の日本の現状を踏まえて検討する必要があると思うのです。卵巣がん患者の現状を思うと「これじゃあ不作為による殺人じゃないか。」と憤りを感じずにはいられません。
 がんは部位ごとに適応追加が必要です。有効とされるすべての部位に治験が行われることは難しく、麻子さんと同じ思いをする患者は決して少なくないと思います。
 適応外という言葉尻だけをつかまえて「悪」と考えないで、今こそ、患者が置かれている現状なども踏まえ、前向きに適応外治療について考える時期が来たのではないかと思います。

20090720 適応外使用で命をつないでいる患者がいる現実

卵巣がん体験者の会スマイリー 片木美穂
 卵管がんや腹膜がんは、病理学的に進行卵巣漿液性腺がんに類似していることから、しばしば上皮性卵巣がんと同一の範疇として取り扱われます。化学療法の奏功性は卵巣漿液性腺がんと同等であるといわれています。
 治療の原則は、腫瘍減量手術と化学療法による集学的治療です。初回化学療法のレジメンは卵巣がんの標準治療に準じてタキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法が選択されます。再発再燃時の治療も化学療法を選択する場合は卵巣がんに準じた選択が行われます。
 しかし、例えばタキソールの添付文書を見ると効能効果の欄には「卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、胃癌、子宮体癌」と記載されており、卵管がんや腹膜がんに関してはいわゆる適応外使用されているのが現状です。併用するカルボプラチンなどの効能効果も同様です。
 去る4月30日、薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会が発表した「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(第一次提言)」を読みました。
 その中には、適応外使用により薬害被害が拡大するというリスクを想定して、適応外使用に関しては倫理審査委員会等を有する医療機関に限定する旨が盛り込まれています。
 その一方で、適応外使用が行われないために「臨床上の必要性があり、安全性と有効性に関する一定のエビデンスが備わっている場合には、速やかに保険診療上認められるシステムを整備するとともに、適切な承認手続きのもとで承認を得られるように体制を整備すべき」ということも記されています。
 しかし、これまでの「ドラッグ・ラグ」の歴史からみても体制の整備実現は極めて難しいことが予想されます。
 2007年4月、がん対策基本法が施行され、がん医療の均てん化が求められており、がん診療連携拠点病院なども整備されてきていますが、まだまだ一般への認知度は低く拠点病院などが存在することを知らない患者も少なくありません。倫理委員会を有する医療機関といったものになるとさらに患者にとっては把握しづらく、混乱が起きることが予想されます。
 また、安全性と有効性が認められる薬剤を早期承認するといっても、がん領域では、効能効果の追加はなかなか進んでいません。一部の薬剤では特許切れもおきており効能効果の追加に関しては深刻な薬剤もあります。
 また、社会保険診療報酬支払基金が2007年9月に47の薬剤を保険償還しましたが、その後、学会や患者会などから薬剤の追加の要望が上がっているにもかかわらず、保険償還される薬剤の追加は行われていません。
 そのような日本の現状での、この提言は、適用外使用される治療によりいのちを繋いでいる患者にとっては、「適応外使用禁止」といわれているのも同然です。
 この提言を読んで背筋が凍る思いをした、がんに携わる医療者や患者は少なくないと思います。
 卵管がんや腹膜がんは再発することも少なくありませんが、化学療法の奏功率も高く治療により命をつなぐことも可能です。
 しかし、もととなる治療の対象である卵巣がんは、欧米などでプラチナ製剤に耐性ができた卵巣がん治療に使用されているジェムザールやトポテカンがまだ適応外であるという状況です。
 私たちはなんでもかんでも薬を認めろというつもりはありません。でも安全性・有用性が認められ必要である抗がん剤で治療を受けたいと願って昨年末に署名を呼びかけたところ、2か月で15万4552筆集まり、今年1月に厚生労働省に提出しています。
 薬害被害を出さないことも大切ですし、私たちのような治療薬を心から待ち望んでいる患者を増やさないことも大切です。
 今回の提言ではドラッグ・ラグの被害者がいるという視点はなく、私たち薬が無い被害者がいること、卵管がんや腹膜がんのようにごく少数であることなど様々な背景から適応外使用によりいのちをつないでいる患者がいることを知ってもらいたいと願っています。
 先日、テレビで、廃案見込みとなった肝炎対策法案の患者団体や薬害肝炎被害者が、「いのちが置き去りにされた」と訴えられていましたが、私たちもあたりまえの薬が届かないことで「いのちが置き去りにされた」被害者です。
 肺がんに治療準じている胸腺がんを患った故・山本孝史参議院議員は著書のタイトルを"救える「いのち」のために"とされていました。まさしく「いのち」
のために、適応外使用に関してはその言葉尻だけを捉えるのではなく、ドラッグ・ラグに苦しんでいる患者がたくさんいることを知った上で適応外使用に関しては議論されるべきだと思います。
 参考:NCCNガイドライン、婦人科がん標準化学療法の実際、卵巣がん治療ガイドライン2007年版

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